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これより先幕府は安政三年二月に、蕃書調所ばんしょしらべしょを九段くだん坂下さかした元小姓組番頭格ばんがしらかく竹本主水正もんどのしょう正懋せいぼうの屋敷跡に創設したが、これは今の外務省の一部に外国語学校を兼かねたようなもので、医術の事には関せなかった。越えて安政五年に至って、七月三日に松平薩摩守さつまのかみ斉彬なりあきら家来戸塚静海とつかせいかい、松平肥前守斉正なりまさ家来伊東玄朴いとうげんぼく、松平三河守慶倫よしとも家来遠田澄庵とおだちょうあん、松平駿河守勝道かつつね家来青木春岱しゅんたいに奥医師を命じ、二百俵三人扶持を給した。これが幕府が蘭法医を任用した権輿けんよで、抽斎の歿した八月二十八日に先さきだつこと、僅に五十四日である。次いで同じ月の六日に、幕府は御おん医師即ち官医中有志のものは「阿蘭オランダ医術兼学致いたし候とも不苦くるしからず候」と令した。翌日また有馬左兵衛佐さひょうえのすけ道純みちずみ家来竹内玄同たけうちげんどう、徳川賢吉けんきち家来伊東貫斎かんさいが奥医師を命ぜられた。この二人ににんもまた蘭法医である。
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