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抽斎のまだ江戸を発せぬ前の事である。徒士町かちまちの池田の家で、当主瑞長ずいちょうが父京水の例に倣ならって、春の初はじめに発会式ほっかいしきということをした。京水は毎年まいねんこれを催して、門人を集つどえたのであった。然るに今年ことし抽斎が往って見ると、名は発会式と称しながら、趣は全く前日に異ことなっていて、京水時代の静粛は痕あとだに留とどめなかった。芸者が来て酌しゃくをしている。森枳園が声色を使っている。抽斎は暫しばらく黙して一座の光景を視みていたが、遂に容かたちを改めて主客の非礼を責めた。瑞長は大いに羞はじて、すぐに芸者に暇いとまを遣ったそうである。
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