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五郎作は奇行はあったが、生得しょうとく酒を嗜たしまず、常に養性ようじょうに意を用いていた。文政十年七月の末すえに、姪おいの家の板の間まから墜おちて怪我けがをして、当時流行した接骨家元大坂町もとおおさかちょうの名倉弥次兵衛なぐらやじべえに診察してもらうと、名倉がこういったそうである。お前さんは下戸げこで、戒行かいぎょうが堅固で、気が強い、それでこれほどの怪我をしたのに、目を廻まわさずに済んだ。この三つが一つ闕かけていたら、目を廻しただろう。目を廻したのだと、療治に二百日余あまり掛かるが、これは百五、六十日でなおるだろうといったそうである。戒行とは剃髪ていはつした後のちだからいったものと見える。怪我は両臂りょうひじを傷めたので骨には障さわらなかったが痛いたみが久しく息やまなかった。五郎作は十二月の末まで名倉へ通ったが、臂の※(「やまいだれ+(鼾のへん-自)」、第4水準2-81-55)しびれだけは跡に貽のこった。五十九歳の時の事である。
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