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渋江氏が弘前に徙うつる時、久次郎は切に供をして往ゆくことを願った。三十四歳になった豊吉に、母の世話をさせることにして置いて、自分は単身渋江氏の供に立とうとしたのである。この望を起すには、弘前で料理店を出そうという企業心も少し手伝っていたらしいが、六十六歳の翁おきなが二百里足らずの遠路を供に立って行こうとしたのは、主おもに五百を尊崇そんそうする念から出たのである。渋江氏では故ゆえなく久次郎の願ねがいを却しりぞけることが出来ぬので、藩の当事者に伺ったが、当事者はこれを許すことを好まなかった。五百は用人河野六郎こうのろくろうの内意を承うけて、久次郎の随行を謝絶した。久次郎はひどく落胆したが、翌年病に罹かかって死んだ。
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