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抽斎は晩年に最も雷かみなりを嫌った。これは二度まで落雷に遭あったからであろう。一度は新あらたに娶めとった五百と道を行く時の事であった。陰くもった日の空が二人ふたりの頭上において裂け、そこから一道いちどうの火が地上に降くだったと思うと、忽たちまち耳を貫く音がして、二人は地に僵たおれた。一度は躋寿館せいじゅかんの講師の詰所つめしょに休んでいる時の事であった。詰所に近い厠かわやの前の庭へ落雷した。この時厠に立って小便をしていた伊沢柏軒は、前へ倒れて、門歯二枚を朝顔あさがおに打ち附けて折った。此かくの如くに反覆して雷火に脅おびやされたので、抽斎は雷声を悪にくむに至ったのであろう。雷が鳴り出すと、蚊※(「巾+廚」、第4水準2-12-1)かやの中うちに坐して酒を呼ぶことにしていたそうである。
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