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文政六年四月二十九日の事である。まだ下谷したや長者町ちょうじゃまちで薬を売っていた山崎の家へ、五郎作はわざわざ八百屋やおやお七しちのふくさというものを見せに往った。ふくさは数代前まえに真志屋ましやへ嫁入した島しまという女の遺物である。島の里方さとかたを河内屋半兵衛かわちやはんべえといって、真志屋と同じく水戸家の賄方まかないかたを勤め、三人扶持を給せられていた。お七の父八百屋市左衛門いちざえもんはこの河内屋の地借じかりであった。島が屋敷奉公に出る時、穉おさななじみのお七が七寸四方ばかりの緋縮緬ひぢりめんのふくさに、紅絹裏もみうらを附けて縫ってくれた。間もなく本郷森川宿もりかわじゅくのお七の家は天和てんな二年十二月二十八日の火事に類焼した。お七は避難の間に情人じょうにんと相識そうしきになって、翌年の春家に帰った後のち、再び情人と相見ようとして放火したのだそうである。お七は天和三年三月二十九日に、十六歳で刑せられた。島は記念かたみのふくさを愛蔵して、真志屋へ持って来た。そして祐天上人ゆうてんしょうにんから受けた名号みょうごうをそれに裹つつんでいた。五郎作は新あらたにふくさの由来を白絹に書いて縫い附けさせたので、山崎に持って来て見せたのである。
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